列車は明け方駅に着く 大連から一話

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この物語は中国上海ラジオ局から放送されたものです。(1987年)放送されると大きな反響をよび、翌年には全国ラジオドラマ最優秀賞を受賞しました。

その後、「NHKラジオ中国語講座」で放送されました。(1998年8月~1999年1月)(1999年4月~9月)

これは勉強の為、自分に分かりやすく、原文を訳したものです。

中国人の家族愛や人生観を知るとても心温まる物語です。


(第一話)夜はシンシンと更けていった・・


父:(モノローグ)
夜はシンシンと更けていったが、私は少しも眠気を感じなかった、
車窓の外に茫漠とした、真っ黒い夜空に浮かんだ白い月は、ずっと列車の後を追い、何時までも離れようとしない。
今度の列車の旅は、万感こもる忘れがたい旅だった。

「父さん、まだ寝ないの?」

「なんだ、また布団を床に落としているじゃないか。この癖を直さないと、これからは、いったい誰が布団を掛けてくれるんだ。・・・さぁ、腕を中にいれて。」

「いや。この方が気持ちいいの。」

「言うことを聞くんだ。風に当たると、後で肩が痛むぞ。」

「父さんの前じゃ、私は何時までも小さな子供ね。でも私、もうすぐ先生になるのよ。」

「羽が生え揃うと、小鳥は、何時かは飛び立って行くものだ。ただいきなりこんな遠くへ飛んで行ってしまうとは、思いもよらなかったな。」

「父さん!私が浜海市の教育局に着任報告した後は、私に付いていないで、すぐ家に帰ってね。」
 
「父さんは予め、一週間の休暇を取ってあるんだ。」

「いやよ。すぐ帰るって約束して。そうじゃないと、私みんなに笑われちゃうわ。」

「シー、小さい声で。そのことは汽車が浜海市についてから決める事にしょう。お前はぐっすり寝て、良い夢を見なさい。いいかい?」

「ええ、父さんの言うとおりにするわ。」

父:(モノローグ)
娘は静かに眠った。
ほのかな電灯の明かりのもとで、私は何かに憑かれたように、じっと娘を見つめていた。
娘は目をつむっている。
長くて濃いまつげが、下まぶたに軽く影を落としていた。
 
娘に会った人は、みんな口を揃えて、綺麗な娘さんだと言う。
だが、称賛に続いて、決まって「惜しいことに・・・」という一言が付け加えられるのだ。
 
その後の二文字を口にするのは耐えられない。
 
私は大声で叫びたかった。娘のあの目のくぼみには、キラキラ輝く星がふたつ、隠されているのだと。

私の心の奥深く刻み込まれた遠い昔の出来事が、まるで、車窓の外の暗闇をかすめていく明かりの様に、目の前に浮かんでくる。

それは14年前のある寒い日曜日。大雪が降って、外は一面の銀世界だった・・・

第二話に続く