列車は明け方駅に着く 大連より九話

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(第九話)私は強い予感がした。


「ミンミン、寝むれないのかい?」

「うん、眠れないの。窓のそばに座って居たいわ。」

「来なさい、上着を肩にかけて、風邪を引かないように気をつけなさい。」

「父さん、私のそばに居て、」

「いいよ。」

父(モノローグ)
私と、娘は向かい合って座った。
銀色の月明かりが、娘の若く美しい身体の線を、くっきりと浮き彫りにしていた。

私はじっと娘を見つめていた。まるで精巧な彫刻を観賞するように。
そうだ、この作品は、私が20年の心血を注いだ結晶なのだ。

この様な娘を持ったことを、私は誇りに思う。

これまで、私は、まるで雌鳥がひよこを可愛がるように、娘を慈しんだ。
失明した、娘の心の傷を癒そうと、全力を尽くしたのだった。

しかし、ある日、私は突然考えを変えた。

その日、帰宅した私は、娘が一人で壁際にうずくまっているのを見つけた。
顔色は青ざめ、小刻みに震えていた、まるで哀れな子猫の様に。

白いスカートには点々と血の痕が付いていた。
父親として、全くうっかりしていた私は、慌てふためくばかりだった。

娘に初潮が訪れたのだ・・・・・

それ以来、私は、娘が成長したと感じるようになった。
私は強い予感がした、娘は、何時か、この温かい巣を離れてしまうことを、

翼をいっぱいひろげて飛び立つのだ。

いつまでも、娘を自分の翼の下に置いて守り続けるわけにはいかない。
世の中の荒波の中で試練を経験させなくてはならないのだ。

娘を一人前に育て、その才能を伸ばし、皆から尊敬されるようにしなければならない。
私から離れた後も、独り立ち出来る様にしなくてはならないのだ。

この目標を達成する為、私は決然と行動をとった。

・・・・・・・・・・・・。

近所のばあさん「あれ、まあ!杜コーチ、ピアノを買ったんですか。」

「ああ、いろいろな人に頼んで、やっと手に入れました。」

「これって、とても値段が高いんでしょ!」

「カラーテレビを買うのを止めました。私一人で見てもつまらないんで、少々無理して倹約したら、何とかピアノが買えました。

「それもそうね」

「あ、ちょっと、ピアノは奥の小部屋に運んでください。」

運送屋「小部屋・・・暗くて何も見えませんけど、」

「いや、・・・・・・・娘が弾くので、娘は・・・・・・、」

「あ、すみません。・・さあ~みんなもっとがんばって! 持ち上げて! 奥の方へ、右へ寄って、右へ・・・・・」

(第十話へ続く)