列車は明け方駅に着く 大連より六話

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(第六話)銃をしっかり持って


「さあ、銃をしっかり持って、呼吸を整えて・・・標準小銃の射撃要領に気をつけて・・・用意、撃て! よし、46環、成績が上がったね。」

「コーチ、盲学校の先生が来られました。」

「あぁ、李先生、こんにちは、」

盲学校の李先生「こんにちは、」

「あれ? なぜ、ミンミンも来たの? ピクニックは5時に終わるはずだが。」

「それは、お嬢さんに聞いてください。楽しく遊んでいたのに、なぜか突然気が変わって帰るって言い出したんですよ。一分もそこに居るのは、いやだって言うんです。
わがまま過ぎます。お父さんからも言い聞かせてください。」

「李先生、わざわざ送って下さって、ありがとうございます。」

「どういたしまして、じゃあ、私はこれで。」

「どうもありがとう、それではまた。」

「失礼します。」

「父さん、話があるの。」

「うん、話は家に帰ってからにしよう。」

「いや。今、ここで話さなくちゃ、いや。」

「また、どうして、わがままを言うんだ。」

「父さん、なぜ、私を騙すの?」

「ミンミン、こんな所で、でたらめを言うもんじゃない。」

「父さんは私を騙した、父さん、なぜ私にうそをつくの? どうして?」

「ミンミン、さあ、父さんと一緒にすぐ帰ろう。」

「いやって言ったら、いや、ここではっきり答えてちょうだい。私のお洋服は一体何色なの?」

「ええと・・・・、赤だよ。お前、赤が一番好きなんのだろう?」

「フン、この洋服は赤じゃない、薄紫色だわ。こんな服なんかいらない、いらない、」

「お前、何をするんだ。」

「・・・ほかの人は私のことを、目が見えない子っていじめる、それを父さんまでが私をいじめるなんて、ひどい!」

ミンミン(モノローグ)
その日、私は父さんの勤めている少年体育学校で腹立ちまぎれに、思いっきり騒ぎ立てた。

その時、私はこの世で自分が一番悔しい思いをしていると思った。

父さんの笑い声も一週間以上聞くことはなかった。

後で、私は知ったことだが、

父さんは私の好きな赤い服を買うために、仕事が終わった後、空腹のまま街中の店を回ったそうだ。

どうしても、赤い服が見つからなかったので、父さんは、テレビ局の衣装係をやっているおばさんに相談して、丁寧に選び抜いた末、薄紫色のこの服を買ったのだ。

そして、心優しい父さんは、私が身につけている服が赤い洋服でないと知ったら、私ががっかりすると思って、私に本当のことを隠していたのだった。

・・・・親の気持ってこんなに思いやりがあるのだわ。

今この時、私は父さんに「ごめんなさい、父さん」と一言謝りたい気持ちで一杯だ。

けれども、言葉にならない、心が重いのだ、「しがない草の様な存在で、どうして春の太陽の様な親の心に報いることが出来るというのか、」

過ぎ去った20年の間に、父さんは私に人一倍の愛をくれた。

寂しい時、いじめに遭うたび、いつも私は、父さんのがっしりした腕と幅広い分厚い胸、それに慈母のような心を思うのだった。

(第七話に続く)