列車は明け方駅に着く 大連より三話

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(第三話)私は茫然自失のまま病院を出た。


父(モノローグ)
(私は茫然自失のまま病院を出た、雪が降りしきる、こらえようもない寒さの中を、あてどもなく、さまよい続けた。ついに私は運命の神に逆らう術の無いことを悟った。

だが、娘をこのまま闇の世界に行かせるには忍びなかった。
娘が最後の、かすかな光を失う前に、あの雄大万里の長城を、美しい桂林の山水を、果てしない原始林を、滔滔と波打つ大海を、どうしても見せてやりたい。

そこで、私は、金目のものを全て売り払い、娘を連れて全国遍歴の旅に出た。
その旅の終着駅こそ、今私たちが行こうとしている浜海市だった。
私は、今でもはっきり覚えている。あの時、私たち親子は険しい岩の上に座って、大海原の最後の夕焼けを静かに眺めていた。)


「ミンミン、風が吹いてきた。さぁ、父さんに寄りかかりなさい。」

「お父さん、もう帰ろうよ。あたし、くたびれちゃったよ。」

「いや、もうしばらく座っていよう。注意深く見るんだよ。ちゃんと見たら、しっかり心に焼き付けるんだ。永遠に・・・、いつまでも忘れないようにな。」

「こんど、また見に来ればいいよ、」

「・・あぁ今度、・・・・今度~、ぁぁ~・・・・」

「・・・父さん。どうしたの?・・」

「いや、何でもない。ミンミン、ごらん、なんとすばらしい景色だろう。
ほら、夕焼けは真っ赤だ。ほら、この砂浜の色は、何色?」

「黄金色よ。」

「あの、波頭の色は、」

「雪のような真っ白よ。」

「そう。・・・ミンミン、今度は頭を上げて上を見てごらん、この空の色は?」

「青色だわ。」

「そうだ。ほら、見て、カモメが見えるかい、なんて、自由に飛んでいるのだろう。あのはるか遠くの地平線から、船が近づいてきた。あの船の煙突が見えるかい?・・・」

「・・父さん、もうお家へ帰りたい・・」

「お前は、なんて聞き分けがないんだろう。・・」

「・・・ほかの子供たちは、みんなお家に帰ったわ・・・その子たちは、みんな聞き分けのない子なのね、・・・・父さんは海を見るのが好きだから、あたし、ずっと、そばに居てあげる。聞き分けのいい子になるんだ。」

「ミンミン、あぁ・・・」(お前はほんとうにいい子だ。・・・・・・・)

「・・・・・・ほら、早くあっちを見てごらん、海亀の赤ちゃんがいるよ。・・・・・ミンミン・・・ミンミン・・寝ちゃったのかい・・・これじゃ風邪をひくよ。起きなさい、早く目を覚ましなさい。ミンミン・・・・」

「ウ~ウ~ン・・・・・いいの、お家へは帰らない。父さんが海を見てるいなら、あたし父さんのそばに居る、・・・・・・

父さん、泣いているの?」

(第四話に続く)